相模原の浄土真宗のお寺『本弘寺』

住職の法話

タイトル:『犀の角のようにただ独り歩め』(2022年4月 1日)

 先月の法話でも書かせていただきましたが、高蔵寺の次期住職となるべく養子となってくれた長男が奈良の真言宗豊山派総本山の長谷寺に向け、そして本弘寺の跡取りとして浅草にある浄土真宗東本願寺派本山東本願寺には次男がそれぞれ巣立って行きました。それにともない息子たちが8歳でお得度をさせていただいてから15年間ほぼ4人でお勤めしてきた日曜礼拝も先週3月27日が最後となりました。これからは4人揃うことはなく、しばらくは父とふたりだけでのお勤めになることでしょう。

 3月29日には長男を淵野辺駅で見送りました。翌る30日には次男を本弘寺山門前で見送りました。まったく掃除をしていかなかった彼らの部屋を覗くと、今までとまったく変わらない風景でありますのに、なんだかとても息子たちが遠くに行ってしまったように感じられ胸が押しつぶされるような感覚であり、とても寂しい思いです。

 そんな話しを仲間にしておりますと、皆さんそれぞれ叱咤激励をくださいました。「子離れしなさい。」「子どもが一皮も二皮もむけて大きくなって帰ってきますよ!それまでの辛抱です。」「親とは我慢しなくてはならない存在なのです。子どものためにもしっかりなさい。」中には「趣味を持ちなさい。」といってくれる友人もいました。まさにどのお言葉もその通りでございます。しかし失礼ではございますが、どれも自分でも分かっているのです。分かった上で寂しいのです。

 力なくボーッとテレビ画面を見つめていましたら妻に「子供達に依存しすぎ!そんなんでこれからどうするの!」と叱られました。ハッとさせられました。
いつもいつも家族にハッとさせられる私でございます。寂しい寂しいと日々過ごしていても空虚な時間を過ごしていくだけです。そんな中、今回も釈尊の遺してくださったお言葉がお示しくださいました。

 今月の掲示板に書かせていただいた「犀の角のようにただ独り歩め」というお言葉です。このお言葉も先月同様、法句経で説かれています。
第1章3節、犀の角には「犀の角のようにただ独り歩め」というお言葉で締められた句が40句もございます。どれも大切なお言葉でありますが、
「交わりをしたならば愛情が生じる。愛情にしたがってこの苦しみが起こる。愛情から禍いの生じることを観察して、犀の角のようにただ独り歩め。」
「子や妻に対する愛著(あいじやく)は、たしかに枝の広く茂った竹が互いに相絡むようなものである。筍が他のものにまつわりつくことのないように、犀の角のようにただ独り歩め。」
この2句が私に心に響きます。

 犀の角のようにただ独り歩めとは、どういう意味でしょうか。犀は群れを作らずに暮らす生き物だそうです。群れを作らずに己の道を迷わずにまっすぐ生えた角のようにしっかりと歩めと言うことです。私たち人間はというと人間という言葉から見ても明白なように間柄(縁)に生きています。間柄がないと生きていけない生き物だといってもよいでしょう。親子の間柄、夫婦の間柄、友人の間柄、上司部下の間柄、ご近所さんの間柄、誰も彼も様々な人との間柄に生かされています。この間柄というものはとても大事なものです。しかし考えてみてください。私たちの悩みや苦しみのほとんどはこの間柄から生じているのです。今回私が悩み苦しんでいるのはまさに息子たちとの間柄で、もがき苦しんでいるのです。息子たちに依存しすぎた生活のなかで自分というものを見失いすぎているのです。

 このような誰かに依存し自分を持たない生き方は空虚な生き方といえるでしょう。悩み苦しみが大きくなる前にその原因である間柄から一旦距離を置き、独り静かに孤独に己を見つめ直すことが大事だとおっしゃっておられるのです。自分の人生です。自分をしっかりと持ち、誰にも左右されないしっかりとした自分の道を見極めなくてはなりません。友人から「日にち薬」という言葉を教えられました。確かに時間の経過と共に癒やされていくこともありますし、とても大事な心の作用だと思います。このお陰で生きていけるともいえるでしょう。
しかし今回は「犀の角のようにただ独り歩む」ことが私の人生には大きな意味を持つことだと思っています。皆様も時に独りになって静かに自分を見つめ直すことが必要なことではないでしょうか。

 最後になりますが、この第1章第3節、犀の角の句の中にただ1句まったく違う言葉で締められた句がございます。
「もしも汝が、賢明で協同し行儀正しい明敏な同伴者を得たならば、あらゆる危難にうち勝ち、こころ喜び、気をおちつかせて、かれとともに歩め。」ふたりの息子たちは御本山にてたくさんの先生方、先輩方と出会っていくことでありましょう。賢明で明敏な師匠、仲間と出会い共に学び、歩んでいってほしいものであります。合掌

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