相模原の浄土真宗のお寺『本弘寺』

住職の法話

タイトル:『優しい言葉は たとえ簡単な言葉でも ずっと心にこだまする』(2025年3月 1日)

 テレビを観ていますと、たまに遺品整理の特集を見かけることがあります。
なにから手をつけてよいか分からずに途方に暮れておられる方や、業者さんにお願いして一気に片付けてしまわれる方、中には亡くなられる前から身辺整理をされておられて遺族は特になにもしないで済んだなんて方もおられます。人が亡くなるということは寂しいことでありますが、去年、今年と立て続けに両親を亡くした私どもも事後の整理や手続きは本当に大変なものだと痛感しております。

 去年、母を亡くしたとき、父は遺品を整理し始めたようですが、娘から「寂しいから急いでやらなくてもいいんじゃない?」といわれたそうで、結局何一つ手をつけずに1年過ごしました。そんな中、父が親族一同驚く早さで弱っていき、ベッドから起き上がれなくなって1か月でお浄土へ旅立たれました。

 私が動き回れるならば、ばりばりと動いてあれこれ片付けていきたい思いなのですが、いかんせん少し動くだけで身体が酸欠で動かなくなるのです。ですから父や母の品物がどうなっているのか想像したり、家族から聞いたりして少し途方に暮れております。そんなことから自分のものは今から少しずつでも整理しようと身の回りのことから始めました。

 さて、父が去年の12月半ば過ぎに2週間の入院を経て退院してきたその日、入院するまでは毎日ウォーキングしていた父が、まったく一人では動けなくなっていたことに驚愕しました。そこですぐに必要な手配を始めることになりました。そのひとつに介護ベッドの問題がありました。父は今使っているベッドが好きだから介護ベッドは要らないと言い張ったのですが、起き上がることも出来ない父ですからそんなことは言わせておけません。すぐに介護ベッドをお願いしました。お風呂のことも考えると6畳一間にベッド2つ置いておくのは邪魔ですし、介護ベッド1つならお風呂も同じ部屋で入れていただけますので、父のお気に入りのベッドは分解して2階の父の書斎に運びました。

 これから半年、出来れば1年は頑張ってほしいと思い、皆であれこれ知恵を出しては父と暮らしましたが、母の一周忌を見届けますと満足したように母の待つお浄土へと向かわれてしまいました。

 まもなく父の満中陰法要を勤めます。それを機に父と母の遺品整理をしようと兄弟とも話をしております。そこでベッドをまた元の部屋に運んでほしいと義弟にお願いしたのですが、考えてみますと私の病状がもっともっと悪化して動くことがままならないということになりますと、もしかすると1階の父と母が使っていた部屋に移動することになるかもしれません。そうなりますと結局ベッドは不要になりますから、妻に「ベッドも僕があの部屋に移動することになったら不要になるから処分しようか」といいましたら「あのベッドがなかったら私の寝るところがなくなるじゃない」というのです。「え?一緒に寝てくれるの?」と尋ねますと「一人になんかしないわよ」といってくれたのです。なんとも嬉しく感激しました。ちょと泣きました。

 私の友人なども、優しい言葉はかけてくださいます。「お大事に」「頑張ってよくなってよ!」「よくなったら一緒に食事行こうよ!」良い友を持ったなと思います。ですが、息が苦しくてたまらないとき、これ以上なにを頑張れば良いのだろう?食事に行くのは無理だろうな・・・などと友の優しい言葉が逆に辛くなるのです。励ましの言葉は時として凶器にもなるのだなと自分が体験して初めて理解できました。東日本大震災の時、日本全国から「頑張れ」との言葉が被災地の方々にかけられました。そのとき被災地の方々がおっしゃったのは「これ以上なにを頑張れというのだ?」ということでした。これ以上なにをと言う気持ちは当事者になってみないとなかなか分からないものだと痛感しております。

 妻も、半年くらい前までは「頑張れ」「それくらい出来るでしょ」とよく言っていました。そのたびにこれ以上なにをどう頑張れっていうのだと悲しい思いになり、泣きそうになることもありました。しかし私の現状を日々見て、介護してくれている妻は「頑張れ」といわなくなりました「ゆっくりゆっくり自分のペースで良いよ」「一緒にいるよ」「無理しなくていいんだよ」といってくれるのです。なんとも嬉しく、生きる希望になるのです。

 考えてみますと妻のこれらの言葉は阿弥陀如来の本願そのものだと感じます。「あなたはあなたのままで良いんだよ」「いつでも一緒にいるよ」「必ず見捨てずに救い取るよ」と阿弥陀様は私に語りかけてくださっておられます。なんとも有り難く、嬉しく、生きる希望が満ち満ちるお言葉であります。如来の本願に包まれて今日も自分の出来ることをやって参ります。南無阿弥陀仏

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