相模原の浄土真宗のお寺『本弘寺』

住職の法話

タイトル:『なぜ私だけがこんな目にあうのだ と言う人は多いが 私だけなんて滅多にない』(2024年7月 1日)

 諸行無常の人生ですが、6月中旬に体操のお兄さんとして有名な佐藤弘道さんの身に脊髄梗塞という病が発症しまったく歩けなくなってしまわれたとのニュースが報道されました。実はこの方と1度家族で海外旅行に行ったときに偶然バスツアーが一緒になり、写真も快く撮らせていただいたこともあり、また同じ年齢ということも重なり個人的に応援しておりました。
弘道お兄さんは、いつも健康に気を配り、身体のケアも人一倍なさっていたのではないかと想像できます。そんな人の身の上に、下半身が麻痺する病気が襲いかかる。なんとも残酷な話しだと思います。

 テレビでは同じ病を発症された人たちからインタビューをされていました。皆さんある日突然発症し、数十年経った今も車椅子生活をなされておられました。弘道お兄さんはご自身で発表なさったお手紙の中で、「脊髄梗塞は残念ながら有効的な治療法が無いことは知っています。今は全く歩けません。リハビリでどこまで回復するか分かりませんが、現実と向き合い、今出来ることを一生懸命に行い、また皆様にお会いできる日を楽しみにしております。」とおっしゃいます。歩ける歩けないは別としてまた弘道お兄さんのあの輝く笑顔を拝見したいと願っております。

 さて、弘道お兄さんの病気も大変ですが、どのような病なのだろうと少し調べてみたくなりユーチューブで検索をしました。すると、検索したキーワードに関連した内容として、今まで目にしたことも耳にしたこともない病名がずらずらと出てくるのです。その中からいくつか観てみたのですが、どの病も想像することすら難しい大変な病気で、その病に身を冒されながらも皆さんその日その日を頑張って生きておられるのでした。

 私のことで申し訳ありませんが、私も間質性肺炎という難病を持ち、発症が分かった時点ではまだ45才でした。当時の先生も「あなたが70代80代ならそんなに心配しないけど、あなたはまだ若いので本当に心配です。」といってくださったのですが、実際北里大学病院に通院していても、私より若い方をお見かけしません。酸素ボンベを持ち歩いている若い方も見かけることはありません。
 実際、この病を発症してしまったときから、すべては阿弥陀様にお任せの身なのだから心配することは何もない。なるようになるしか無いのだからその日その日を大事に生きていこう。などと思ったものですし、それは今も変わりはないのです。ですが、ときどきなんで自分だけこんなに若くしてこうなってしまったのだろう。この苦しみからなんとか逃れる方法は無いものか。などと思うこともあるのです。

 そんな中、以前から気にはなっていたのですが、神奈川県立循環器呼吸器病センターという病院で診てもらうことにしました。すると、私よりも断然若いと見受けられる女性が酸素ボンベを使っておられるのです。そして先日入院した折にこんなにひどい咳も自分だけかもしれないと思っていましたが、隣の病室の男性も私と同等か、それ以上の咳き込みに夜も眠れないようで誠に苦しそうでおられました。なぜ私だけがなどと思うこともありましたが、私より若くして苦しんでおられる方もいらっしゃる。私よりひどい咳に苦しんでおられる方もいらっしゃる。先日は特殊な型の間質性肺炎のようですが29才という若さで、あっという間に亡くなっていかれた若者もいらっしゃいました。私だけなんてひとつもないのでした

 お寺に相談に来られる方々の悩みを聞かせていただいておりますと、身体的なことであったり、人間関係のことであったり、経済的なこと金銭問題で悩む方、争う方、悩みや苦しみはそれぞれ違いますが、「なぜ私だけが」とおっしゃる方がたくさんおられるのです。

 平成の名曲と言われる「世界でひとつだけの花」という曲がありますが、日本中から愛され続けている名曲です。阿弥陀経の「青色青光・黄色黄光・赤色赤光・白色白光」から来ていると聞いております。今年はオリンピックの年ですが、金メダルを取るようなナンバーワンにはなれなくても、自分というものをしっかりとと見つめ、自分を輝かせていこう。と言うことでありましょう。

 ただしこれには落とし穴もあるなと最近思うのです。自分にとって都合の良いもの、心地の良いものを見つけて誰とも比べる必要のない特別な自分に気づけたときだけこの曲がぴったりと皆さんの心に合致するのではないでしょうか。そうではなく自分にとって不都合なこと、心地悪いものも含めての特別な自分なのです。そしてそんな私たちをそのままそのままといつでも全力で肯定して見守ってくださっておられるのが阿弥陀様の御本願なのであります。そのことに気がつかされますと、なにがあっても今日を張り切って歩んでいこうと思えるのです。
苦しみや悲しみがこの世から消えることはないでしょう。それでも阿弥陀様の慈光に照らされて、明るく前を向いてお念仏の大道を皆様と共に歩みたいと思っております。合掌

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