相模原の浄土真宗のお寺『本弘寺』

住職の法話

タイトル:『花を摘むのに 夢中になっている人を 死はとらえ さらっていく』(2024年5月 1日)

 前回の入院以降、1食10グラム以下という食事の脂質制限が課せられました。栄養士の方の話を聞いていると、こんな食生活でやっていけるのかしら・・・と不安になる話ばかりでした。しかし退院して実践してみますと、確かに難しい面もありますが案外なんとかなることが分かりました。そもそも脂っこいものはとくに好んで食べませんし、食に関して執着心も少ない方だと自負しておりますので、これなら行けそうだなと感じました。

 しかし、毎食毎食、おにぎりと味噌汁、うどんやおそば、サラダとチキンの胸肉か白身のお魚ばかり食べている私を心配して、妻はあれこれと工夫を凝らして様々な食事を作ってくれるのです。食卓に並べられた妻がわざわざ作ってくれたおかずと、脂質のことが載っている本を見比べては、これとこれをいただいてギリギリ10グラム。それ以外は食べないから下げてください。などと偉そうに、時には大声を出しながら過ごしておりました。そんなことを続けていますと、当然妻も苛々するはずです。そんなにあれこれうるさいなら自分で毎回用意しろと言われても仕方ありません。

 ここでハッとしました。食に関して執着していないと書きましたが、食べたいということに関しての執着ではなく、脂質10グラム以上はけっして食べないということに執着していたのです。執着しすぎて周りの人を心配させ、いつもあれこれお世話してくれている妻に対しては怒りの心まで起こさせてしまっているのでした。

 先月書きましたが、水原一平さんがギャンブル依存症で大変な事件を起こしました。当初7億円と言われていた送金して盗んだ額も、実際は24億円以上だったということが分かり、とんでもない事件となっておりますが、これもギャンブルに執着してしまった結果でしょう。
私は保護司というお仕事を承っておりますが、まさか相模原にそんな人いるの?と思うほど薬物に執着して逮捕されている人がいます。
かなり前に話題になりましたが世界的トッププロゴルファーのタイガーウッズさんも性に執着して身を滅ぼしかけました。
これらは病名をつけるならば、ギャンブル依存症、薬物依存症、性行為依存症などといわれています。依存症と名が付くものは数え切れないほどあるようで、興味のない人から見たら、そんなことに依存してしまうのかと驚くような物事まで多種多様のようです。

 ところで依存とはなんでしょうか。辞書には「他に頼って存在、または生活すること。」とありました。例として「会の運営を寄付金に依存する」と記載されていました。
他に頼って存在、または生活ということでありますが、他に頼らずに生活できる人がいるでしょうか。どんな人であろうとけっして一人では生きていけないのです。食べるものも着るものもすべて自給自足するのはかなり難しいことではないでしょうか。仮に他人の力を借りずに自給自足している人がいたとしても、太陽や水や空気などに頼らずには存在し生きることは不可能です。そう考えますと誰しもがなにかに依存して生かされているといえるでしょう。

 しかし、依存に症が付くと問題です。辞書には「しるし。病気のしるし。病気の状態。」とあります。病気なのです。依存症を調べますと、「ある物事に依存し、それがないと身体的・精神的な平常を保てなくなる状態。」とあります。平常を保てなくなるのです。

 依存は誰しもがしている行為です。しかしそれが症ということになりますと、もはやそのことで頭がいっぱいになり、それがないと不安や恐怖に怯えることとなり生活そのものが成り立たなくなるのでしょう。私の脂質10グラム以下に執着しそのことに依存している状態も、度を過ぎますと精神的に追い詰められ拒食症のようなものに発展するのかもしれません。

 今月の言葉は釈尊の遺してくださった法句経からいただきました。
花を摘むのに夢中になっている人とは、なにかに執着し依存している人という意味です。死はとらえ、さらっていくとは、そのような止めどもない執着心、依存心に心をまかせ、もっともっとと満足できない時間を送っていると、人生を無駄に浪費するだけで、自分にとっても周りの人にとっても何一ついいことはないのだとのお示しでありましょう。

 私たち浄土真宗の門徒にとって大事な「仏説無量寿経」には「少欲知足」というお言葉が出てまいります。もっともっとと後から後から止めどなく湧き上がってくる欲に気づくことが大事なのです。そのことに気づき反省し自分を見つめないしてくことで、今ある状態に満足できる私になっていくのではないでしょうか。

 どんなことでも、自分を見つめ直し、反省し、我が身の幸せに気づき満足している人は、周りの方にも自然と幸せと満足をお裾分けしているように思うのです。

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