相模原の浄土真宗のお寺『本弘寺』

住職の法話

タイトル:『他人を批判せず 自分を観つめる』(2023年7月 1日)

 在宅酸素療法が始まったことにより、定期的な診察に毎月一回行かなくてはならなくなりました。考えてみれば3か月に1回だった診察も、去年の暮れからほぼ毎月になっていましたので大きな変更はないのですが、今の先生はとにかくのんびりで待ち時間が長くなりました。朝の9時の予約なので、朝の7時45分から採血をしていただきます。たくさんの人が採血をされるのですが、採血ブースが10カ所以上あり、あっという間に採血は終わります。その後すぐに胸のレントゲン撮影に移動します。こちらもさほど待たずに撮影してくださるので、8時20分には診察室の前に移動して自分の順番が来るのを待つことになります。

 この日は御本山に奉職させていただいている息子から、「面白いから観て」と送られてきた動画を観ながら過ごすことにしました。それでも時間が余り、じっと待っておりましたが時間はすでに9時半を回っています。少し疲れてきたところにようやく私の番号が呼ばれました。本来ならばモニターに番号が出てそれを各自確認する必要があるのですが、見逃したのでしょうか。申し訳ないことをしたと席を立ちますと、今から酸素飽和度や血圧、体温を測りますというのです。
うーん最初から分かっているなら9時前にしてほしいなと思いつつ看ていただきました。そこからまたしばらく待ち時間がありましたので、息子宛に動画を観た感想を送ろうとメッセージを書き始めたところであることに気がつきました。

 看護師さんに看ていただく。お医者さんに診ていただく。内視鏡で視ていただく。診察番号を見る。動画を観る。すべて同じ「みる」と読みますがどれも漢字が違います。看るは手と目で相手の状態を把握し、お世話するということでしょう。診るは患者の言葉に耳を傾けるということが大切だということで言偏なのでしょう。患者を診る先生か、病気を見る先生かということが問題になったりするのもこのことでしょう。視るは注意して見きわめるということだそうです。観るは意識して注意深く観察することです。見るは視界に入ってきたものをとくに意識しないでも見ている状態です。

 なるほど面白いなと思っていましたら10時半になっていました。こうなると気持ちに大きな変化が生まれます。採血もレントゲンも他の病院ではまだ開始していないであろう朝早い時間からしてくださいますので、毎回毎回感謝の気持ちでいっぱいなのです。それが予約時間を過ぎてから在宅酸素療法をしている人は診察前にやるという軽い検査をされたことに少し苛つきを覚えてしまいました。そして今の先生のおかげで在宅酸素療法を始めることになり、私の要領を得ないであろう言葉にも耳を傾けてくださる先生には感謝しているのですが、さすがに身体も心も疲れ切ってしまい、恨み節になります。

あれ?感謝しているはずなのに・・・また文句を言い出したぞとハッとしたとき
ふと、金子みすゞさんの「犬」という詩を思い出しました。
「うちのだりあの咲いた日に 酒屋のクロは死にました
 おもてであそぶわたしらを いつでもおこるおばさんが
 おろおろ泣いて居りました
 その日 学校でそのことを おもしろそうに話してて
 ふっとさみしくなりました」
いつもガミガミ怒る酒屋のおばさんが、愛犬のクロが亡くなったことをとても悲しみ、おろおろと泣いておられるその光景を児童たちは皆、チラチラと見ながら登校したのでしょう。そして酒屋のおばさんが泣いていたことをみんなで笑い話にして楽しんだのでしょう。みすゞさんもその話しの中に入って笑っていたのかもしれません。しかし、みんなが笑っている最中に、おばさんが大事にしていた愛犬のクロが亡くなったこと、そのことをとても悲しんで人目もはばからずに泣いているおばさんの心中を思ったのでしょう。そして他人の不幸を笑っている自分に気づき、さみしくなったのでありましょう。

 宗祖親鸞聖人も愚禿悲歎述懐和讃においてご自身のお心を深く深く観つめられ「浄土真宗に帰すれども 真実の心はありがたし
 虚仮不実のわが身にて 清浄の心もさらになし」
「悪性さらにやめがたし こころは蛇蝎のごとくなり
 修善も雑毒なるゆへに 虚仮の行とぞなづけたる」
など16首も遺されました。

 金子みすゞさんの詩も、聖人の和讃もけっして他人事ではありません。むしろ私のために遺してくださったのではないかと思えるのであります。私の目は自分の外側を自分の都合の良いように見ようとし、都合の悪いものは無視をしたり、腹を立て、文句を言ったりしております。誰も私にとって不利益なことをしてやろうなどとは思っていないでしょうに、私はそう感じ感謝してしかるべき事も腹立ちに変えているのです。他人の一挙手一投足に目くじらを立てて批判したりするのではなく、そんな心が起きたときにはとくに自分の心の内側をしっかりと観極めることが大切なのだとしらされました。

最近の記事

月別アーカイブ