相模原の浄土真宗のお寺『本弘寺』

住職の法話

タイトル:『暑き日に 流るる汗は 涙かな』(2021年8月 1日)

 先日、妻とテレビドラマを観ていましたら、なんとも他人事とは思えないエピソードがありました。とある仲の良いご夫婦の話しです。
あるとき奥さんがフランスにご旅行に出かけられました。旅先でバスク地方で作られている羊乳を使ったチーズにブラックチェリーのジャムを付けて食べると、とても美味しいと知った奥さんは、どうしても旦那さんにも食べさせてあげたいとチーズとジャムをお土産に買って帰ります。

 家に戻った奥さんは、旦那さんにお土産のチーズとジャムを見せて、「とても美味しいのよ一緒に食べましょう。」と話しかけます。新聞を読んでいた旦那さんでしたが「それは楽しみだね。今度一緒に食べよう。」と返事をしました。

 数日後、奥さんが不在の時にお客さんが来られました。旦那さんはお茶を入れて差し上げるのですが、そのとき戸棚に置かれたひと瓶のジャムを見つけます。「あれ?僕たち夫婦は甘いものは苦手なのになんでジャムなんかあるのだろう?」と不思議に思った旦那さんでしたが、そのジャムをお客さんにあげてしまいます。

 家に戻ってきた奥さんは、自分の話しをまったく聞いてくれていなかった旦那さんにとてもショックを受けられて実家に戻ってしまわれます。そのあと旦那さんがいくら電話をかけようが手紙を書こうが奥さんからの連絡は一切ありませんでした。最終的にはハッピーエンドで一件落着でしたが、人の話を聞いていないという話しになんとも身につまされる思いでした。

 私たち夫婦も仲の良い夫婦です。一日中一緒に生活していますから会話もよくします。ただ、事務仕事に追われている最中に話しかけられるとまったく妻の話しが耳に入ってきません。入ってこないので返事もしませんし、ときにはしつこく話しかけてくる妻に対して腹が立ちイライラして「うるさい!」と怒鳴りつけたりもします。それよりもまずいのは聞いてもいないのに返事をしてしまったことで、ドラマのように話しをまったく聞いてくれていないと言われたりもします。 そんな時、「仕方がないだろ忙しかったのだから。急を要しない話しならいつでも良いじゃないか。もしくは代わりに事務仕事してくれよ。」などと言ってしまうのです。よくよく我が身を振り返ってみますと、なにか自分に落ち度があったようなときはいつでも「忙しかった。」ということを言い訳に使っているようにも思います。それに面倒なことに直面したときなどにも「忙しい」という言葉を使って逃げようとしたりもしています。忙しい忙しいと人の話しに耳を貸さず、自分勝手なことをしています。

 忙しいとは立心偏に亡くすと書きます。「心を亡くした」状態です。心を亡くした状態とは、なにかにつけてイライラしたり、周りの人にはお構いなしで自分勝手な行動をしたり、あーでもないこーでもないと言い訳ばかりして、大事なことを忘れてしまっている状態でしょう。

 今月の掲示板には蓮如上人がたくさん遺してくださったお手紙「御文」からの和歌の上の句を引用させていただきました。親鸞聖人の教え(浄土真宗の教え)は必ずしも出家して僧侶となることを必要としません。阿弥陀如来のあなたを必ず救い取るぞとの本願は、在家であるとか出家しているとか、男性だとか女性だとかそんな区別をして分け隔てることはありません。自分の姿がどのようであろうとも、どのような罪深い人であろうとも、このような私を仏様としてお救いくださる阿弥陀様なのだと知って、深く懺悔の心を起こして、ふたごころなくただただ阿弥陀様を頼みにして寝ても醒めても阿弥陀様に対する感謝の心を起こしてお念仏申しなさい。と本文でお示しくださり、最後に
「あつき日に ながるるあせは なみだかな かきおくふでの あとぞおかしき」この暑い日に流れ落ちてくる汗は阿弥陀様の本願がありがたく、もったいなく、畏れ多いという心からの涙なのでしょう。という和歌で結ばれておられます。

 阿弥陀如来は私たちを何時でも何処でも必ず救うぞと願い続けてくださっておられます。そして私たちの声も聴き続けてくださっておられます。蓮如上人は私たちにけっして阿弥陀様の本願を忘れることなく何時でも何処でもお念仏申しなさいとお示しくださいました。しかし阿弥陀様の本願を忘れて聴こうともしないことがある私です。いつでも私のことを案じてくださっておられるのに忙しい忙しいと心を亡くしている私です。そのような私だからこそ救ってくださる阿弥陀様がありがたく涙が出る思いであります。阿弥陀様の御許に救われて行かれた大事な方々も何時でも何処でも私のことを案じ、私の声を聴き続けてくださっておられるでしょう。お盆が参ります。心を落ち着けてしっかりと阿弥陀様とご先祖様方のお声を聴かせていただき感謝のお念仏を申しましょう。合掌

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