先日、お彼岸に皆さんに使っていただくアルコール消毒液を求めにスーパーマーケットに行ったときのことです。普段でしたらお店のすいている時間帯を見計らって買い物に行くのですが、この時は用事があって出かけたついでに寄ったので混雑している時間でした。失敗したなとは思ったのですが、アルコール消毒液をふたつ買うだけでしたから、短時間ですむと思い会計の列に並ぶことにしました。
会計レジの列は６列以上ありましたが、どこもかなりの行列ができていました。一番早そうな列を探したのですが、どこも同じようだったので入り口に近い列に並ぶことにしました。並ぶ時にほんのわずかな差でひとりのご婦人が私の前に入られ、私は９番目になりました。
これは時間がかかりそうだなと思いながらもあきらめて並びました。すると私の前に並ばれたご婦人が、私のことを肩越しにチラチラと見てくるのです。最初はその方と私とどちらが列の前になってもおかしくないタイミングでしたから、それを気になさっておられるのかな？と思いました。しかし列がひとつ動くたびにその方は私をチラチラと見るのです。なんだ？ソーシャルディスタンスを気にしているのかな？そう思いもしましたが、レジの列の床には最近よく見かける人と人の距離を保つためのシールが１メートル間隔程度で貼られています。確かに私ももう少し離れたいと感じていましたが、お店の指示ですし、私がひとつ飛ばして並べば後ろの方に注意されるでしょう。ですからお互い我慢しましょうよ。と思い無視をすることにしました。
ですがひとつ前に移動するたびにチラチラと見られるのも気分のよいものではなく、４回目くらいには腹が立ってまいりました。「なんだこのばあさん？気分悪いな・・・腹立つな・・・」それまではご婦人と認識していた相手が、もはやばあさん扱いです。その後もイライラしながら我慢して並んでおりました。
しばらくしてようやく次がその人の会計という所まで来ますと、今まで肩越しに私のことをチラチラと見ていたのに、この時は振り向いて私に対峙してきました。文句でも言われるのだろうかと思いました。しかしその方イライラしている私に対して「お買い物はそれだけですか？私はたくさんあるので時間がかかりますから、よかったらお先に会計されませんか？」とおっしゃるのです。
驚きました。そして恥ずかしいと思いました。ずっとその方は私に対して文句があるのだろうと思っておりました。しかしそうではなかったのです。私が気分がよくないなと腹を立てている時間よりも長い時間をこの方はずっと私のことを気にかけてくださっておられたのです。知らない人に声をかけることはとても勇気のいることです。そういうことを簡単にできる方もおられますが、このご婦人はずっと私のことを気にかけてくださりながらも、話しかけようかかけまいか、先に行ってもらおうか、それともこのまま済まそうかと思い悩まれ続けておられたのでありましょう。私自身人見知りで知らない相手に思いを伝えることができないことが多いのでこの方のお気持ちを考えますと、本当に頭が下がりとても有難いことだと思いました。
今月の掲示板には
「やさしい言葉は たとえ簡単な言葉でも ずっつずっと心にこだまする」
というマザーテレサさんのお言葉をお借りしました。
今回私の前に並ばれたご婦人は、列に並ばれたときから優しい心で他人の私を気遣い、やさしい言葉で接してくださいました。それに比べて私はチラチラと見られていることに気付いたときから優しさのかけらもない、むしろ相手を批判するような気持ちで一杯でした。この方の心のこもった優しいお言葉は私の心にこれからもずっとずっと残りこだまし、今後の行動にも影響するでしょう。
マザーテレサさんのお言葉は、佛説無量寿経の「和顔愛語 先意承問」和やかな顔、やさしい言葉で、相手の気持ちを第一に考えて行動しなさいというみ教えをやさしく伝えてくださっておられます。そしてご婦人の行動はまさにマザーテレサさんのお言葉、佛説無量寿経の教えの実践であります。とても学ばされました。有難いことです。頭では理解できていても、心の理解まで至らないことが多いと気付かされました。
よい教えや言葉や格言を伝えてくださる方はたくさんいらっしゃいますし、私もそのひとりでありたいと思ってはおりますが、相手を気遣い、やさしさにあふれたひと言の言葉こそ、かけられた相手は感動をおぼえ、その方もまたやさしさにあふれることでありましょう。やさしさと心遣いの連鎖は私たちが忘れてはならない、心がけなくてはならない大事な心だと思うのであります。ひとりのやさしい言葉、気遣う心が大勢のやさしさと心遣いを生むのでありましょう。合掌