相模原の浄土真宗のお寺『本弘寺』

住職の法話

タイトル:『釈迦は慈父  弥陀は悲母なり』(2019年8月 1日)

釈迦は慈父  弥陀は悲母なり

 最近は坊守(お寺の奥さんのこと。私の妻)が更生保護婦人会の理事の1人として種々活動をしてきて、様々なことを教えてくれます。普段妻に対して偉そうなことばかり言っているのですが、更生保護婦人会で見たり聞いたり体験してきたことの話を聞かせていただくと、初めて聞いたり教えてもらったことが多く、知らないことばかりだなと恥ずかしくなります。

 妻が先日、中央区田名にある「中心子どもの家」という施設に出かけていったのですが、どのような施設なのかあまり理解していませんでした。施設に出かけていって先生の話を聞かせていただき、子供達の部屋のカーテンレールの修復や浴衣のアイロンがけなどをお手伝いさせていただき戻ってきた妻でしたが、普段より幾分興奮しているようでした。

 「中心子どもの家」とは児童養護施設です。児童養護施設と聞いて皆さんは具体的にどのような施設なのか説明できますか?中心子どもの家のホームページにこのような説明が記載されていました。『保護者のない児童、虐待されている児童、その他環境上養護を必要とする児童を入所させて、これを養護し、あわせてその自立を支援することを目的とする施設』と規定されているのだそうです。

 妻の話によりますと全国に615施設有り、神奈川県には48施設、そして相模原市には中心子どもの家を含めて2施設あり、相模原の2施設で定員は65人。中心子どもの家は定員46人なのですが、現在50人の子どもが暮らしているそうです。逆に職員は32人必要なところ、30人で頑張っておられるようです。

 一昔前は両親の離婚によって育児が難しくなったという理由により預けられる子が多かったそうですが、現在は100%親による虐待によりここで暮らす以外なくなった子達なのだそうです。これに妻も私も驚きました。

 各家庭により様々な理由があると想像していましたが、100%虐待だと聞いて驚愕しました。しかしそれと同時に納得もできました。この数年でもの凄い勢いで増えたのか、昔からありはしたが表に出てこなかっただけなのかは分かりませんが、実際児童虐待のニュースがあまりにも多すぎます。
 親の離婚によって生活苦となり仕方なく預かってもらうということが大半だった時代は、正月休みなどにはみんな親元に帰っていったそうです。
 しかし100%虐待が理由となった今、親元に帰る子は1人もおらず皆施設で新年を迎えるのだそうです。なんともやりきれません。

 子どもが「お父さん」「お母さん」と呼ぶのはなぜでしょうか?赤ちゃんが初めて声に出して言葉を話すのは普通「ママ」です。これはなぜでしょうか?
 お母さんがお乳をあげながら、抱っこをしながら「私があなたのママよ」と話しかけているからママという言葉を覚えて話すのでしょうか?私は違うと思います。自分では何一つできない赤ちゃんですが、そんな自分を何時でも何処でも全力でもって優しく抱き包み込んでくれている相手に対してなんの不安も恐怖も抱くことなくただ安心してその身をゆだねられる。その安心から自然と出てきた言葉が「ママ」ではないでしょうか。次に出てくる「パパ」もこの人は全力で私を守ってくれる。何も恐れるものはないのだとの心から自然と出てくるものではないでしょうか。

 安心して手を握っていられるはずのママ、パパから手を外され、それどころか暴力を受ける。それでもママ、パパを信じ続けるしか術がない。その子のことを思うと心が張り裂けます。

 今月の掲示板の言葉は唯信鈔文意という御聖教から引用させて頂きました。本来は私たちが信心を得る為に釈尊と阿弥陀如来がご苦労くださっておられるということなのですが、慈悲という言葉を慈と悲の2つに分けて「慈父」「悲母」という表現をなさっておられるところをお話しさせていただきますと「慈」とは衆生に楽を与えること「悲」とは衆生から苦しみを抜くことと説明されます。
 慈父とは子どもに喜びを与えたいと願う父の姿であり、悲母とは子どもに降りかかる苦しみをすべて取り除いて助けてあげたいと願う母の姿でありましょう。
 仏様は我々すべての子どもを平等に慈父となり悲母となり必ず救うとお約束くださいます。しかし私たちはすべての子というわけにはいきません。自分の子ども限定の慈父であり悲母でありましょう。現代、その限定的な慈悲の心さえも失われています。

 今日は逆に子に捨てられそうな高齢のお母さんからの電話を頂きました。なんともやりきれない話しです。先月と同じ話、というより私の話のほとんどが仏法を聞かせて頂く中に開けてくる家族のあり方を話してきたように思います。相手の身になって考える。そういうことを皆さんも他人事と思わずに今一度思い起こしください。合掌

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