相模原の浄土真宗のお寺『本弘寺』

住職の法話

タイトル:『親思ふ 心にまさる 親ごころ』(2018年3月 1日)

親思ふ 心にまさる 親ごころ


 2月の半ばに高校の修学旅行以来の山陰山陽を巡る機会を得ました。島根県から入りバスで広島県に抜けて最後は山口県という2泊の旅でした。
初日は羽田空港から飛行機で出雲空港に向かう行程でしたが、羽田空港で「雪のために出雲空港に降りられないかもしれず、羽田空港に戻る可能性もあります。」と告げられました
最初から飛ばないのであれば旅行代金も戻ってくるのでしょうが、飛んでしまった場合どうなるのだろう?本当に雪ってやっかいだな・・・などと思いながら搭乗しましたが、向かってみると案外晴れていまして無事に到着できました。


島根県は出雲大社と足立美術館を観光できました。出雲大社はお土産物屋さんの女性がガイドをしてくださり、様々なことを説明してくださいました。
お参りの作法も細かく説明してくださり実際にお参りをしましょうということになりました。しかし私は浄土真宗の僧侶ですし、決して不遜な気持ちではないのですが神様にお願いしなくてはならないこともありませんので、他の旅行者の方々がなさっておられるのをただ立って見ていました。すると同じツアーの方々から、どうしてこの人は神社に来てお参りをしないのだろう?お賽銭をしないのはなぜだろう?というような目で見られはじめてしまい、いたたまれなくなり形だけでもとお参りをさせていただきましたが初めてのことでなんとも恥ずかしい思いでした。


 足立美術館はアメリカの日本庭園専門誌で15年連続1位の庭園や横山大観の絵で有名な美術館です。庭園は雪が積もっていてとても幽玄さを感じる素晴らしい風景でした。あー雪の庭園も素晴らしいものだな。などと感じつつ、美術館外の深く積もった雪にも感動してもっと降ったらもっと綺麗なんだろうなどと、羽田空港で雪に関して感じた感想などどこかに吹き飛んでいました。


 明くる日はバスで広島の平和記念公園と安芸の宮島の観光でした。私は広島には行ったことがなく、特に平和記念公園の原爆ドームでお参りをさせていただきたいと思っておりましたのでこの旅最大の目的地でした。
ところが集合時間に迎えに来てくださったガイドさんの言葉は「大雪で高速道路のいたる所で通行止めが発生していて平和記念公園には行けないかもしれない。」でした。昨日感じた雪の素晴らしさが今朝はいつもの通り腹立たしく感じます。
なんとも身勝手な自分です。自分の都合でしか物事を判断できない根性がどこまでも根深く棲みついているなと反省はするものの、畜生の心が私の心を占有してモヤモヤが止まりませんでした。
結果としましては運転手さんの的確な判断や運転技術で予定の1時間遅れ程度で平和記念公園に到着でき、公園内の見学か記念館の見学かを選ばなくてはなりませんでしたが念願の原爆ドームに手を合わせることはできました。


 最終日は萩・津和野の見学でした。萩の武家屋敷を観光した後、松下村塾にも行けました。ここが有名な松下村塾か。当時の建物が残っているなんてすごいことだなどと軽い気持ちで見学していたのですが、吉田松陰が両親に宛てて送ったという手紙にしたためられた辞世の句の石碑が目に入りました。


「親思ふ こころに勝る 親ごころ けふの音づれ 何ときくらん」寅二郎


とありました。寅二郎は吉田松陰の幼名です。安政の大獄で処刑されることになった吉田松陰が、実の両親に宛てた最後の言葉です。幼くして跡取りのいなかった吉田家に養子と出された寅二郎でした。江戸をはじめとして諸国にて勉学した折には苦労して貯めたお金を持たせてくれた実の両親に感謝しても仕切れなかったでしょう。そのような背景から松陰が両親のことを心から大事に思っていたのは読み取れます。しかし、安政の大獄で牢屋に投獄された後も、シラミに食われないようにと頻繁に訪れては洗濯をしてくださったり、好きな勉強ができるようにと本の差し入れを欠かさなかったりと、養子に出ようと、罪人になろうと変わらずに深い深い愛情を注ぎ続けてくださっておられる両親のことをよくよく思ったときに、親様の深い深い親心を感じずにはおれなかったのでありましょう。
そしてそんな両親が、自分がこれから処刑されていくという知らせを今どんなお心で聞いておられるのだろうと思うと申し訳なさでいっぱいだったのだろうと思うのです。


 この言葉に触れたときに、私がどんな者であろうとも一人っ子を慈しむかのように、見捨てずに救わずにはおられないとお約束くださっておられる阿弥陀如来の本願、親心がなんとも有り難く、松陰神社の中でしたが思わずお念仏がこぼれるのでした。


 間もなく春のお彼岸がまいります。阿弥陀如来の身元に往生されていかれた先祖の方々の思いを願いを仏法を聴く中にどうか感じてください。皆様の彼岸法要のご参詣心よりお待ち申し上げます。合掌

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