相模原の浄土真宗のお寺『本弘寺』

住職の法話

タイトル:『悪性さらにやめがたし こころは蛇蝎のごとくなり 修善も雑毒なるゆえに 虚仮の行とぞなづけたる』(2017年5月 1日)

悪性さらにやめがたし こころは蛇蝎のごとくなり
修善も雑毒なるゆえに 虚仮の行とぞなづけたる
                  悲嘆述懐和讃


 先日、入国管理法違反容疑でタイ警察に逮捕されて、身柄を日本に送り返されたところ熊本県警が出資法違反で国際手配していたと言うことで、飛行機が日本の領空に入った時点で逮捕された山邉節子という62才の女性が世間を賑わせました。2人の男性から嘘のもうけ話で7千万円をだまし取った容疑での逮捕だそうですが、50人以上から7億円もだまし取ったとも伝えられており、その筋ではつなぎ融資の女王とも言われていたそうです。


 この女性のニュースは、事件の内容以上にその容姿や服装が話題になっていました。62才とは思えない派手な服装や髪型がかわいいと、同世代の男性の間で話題なのだそうです。とあるテレビ局では山邉容疑者が警察に伴われて洋服のフードをかぶって顔を隠して歩いている様子を映し出して、そのテロップに「頭隠して足隠さず」とありました。ミニのワンピース姿を強調したテロップですが、これには上手いと笑ってしまいました。


 こういう事件のニュースを見ていて感じるのは、みんな他人事なのだなということです。もし自分が幾らかのお金をだまし取られていたら笑うことなどできません。オウム真理教がサリン事件を起こしたとき、マスコミになにを聴かれても、なんだかんだと言い訳で逃れ続けて「ああいえば、上祐」などという言葉まで生まれた上祐という人がいましたが、事件の真っ最中にすでに上祐ファンクラブなるものが現れました。この人は最終的には逮捕されませんでしたが、大勢の人を無差別に殺すテロ事件を起こした容疑のかかった集団の広報代表として出てきている人を、世界中が事件の被害に遭われた方に哀悼の意を表し、事件そのものに恐怖をいだいている真っ最中に、格好が良いだの頭が良いだのとチヤホヤする女性がたくさんいるという報道驚きを隠せませんでした。この手のことは他にもまだまだあったと思います。


 上祐代表のことも今回の山邉容疑者のことも、今も苦しんでおられる方がいるにも関わらず、どれもこれも他人事なのです。とくに山邉容疑者の容姿や話し方などに興味を持って話題にしている方々においては、彼女についてだけと言うよりも、その根底には被害に遭われた方々への羨望や妬みからくるどろどろとした心を感じるのです。


 他人の不幸は蜜の味といいます。インターネットでは同義語としてメシウマというそうです。意味は「他人の不幸で今日も飯がうまい」という意味だそうです。
なんとも悲しい恥ずかしい心です。


 親鸞聖人はご自身のお心を深く深く見つめられて正像末和讃の巻尾に悲嘆述懐和讃を示されました。いくつか紹介しますと
「悪性さらにやめがたし こころは蛇蝎のごとくなり」
「無慚無愧のこの身にて まことのこころはなけれども」
「小慈小悲もなき身にて 有情利益はおもうまじ」

とお示しくださっておられます。


「悪いことだとわかっていても止めようとは思わないし止められない。心は蛇や蠍のように恐ろしい毒気を含んでいる。」
「悪いことを悪いとも思わず、それを恥ずかしいとも思わない。私のどこを探しても真心など見つからない」
「人を哀れみ悲しむ心など持ち合わせない私です。人を救おうなどと思う心はまったくありません」
簡単に言うとこのような意味になります。


 この聖人のお言葉を一人何度も味わわせて頂く中にハッとしました。
私自身お金をだまし取られたと怒り嘆き泣いている方々に同情しているかと言えばほとんどありません。元本保証で巨大な利子がもらえるなどとそんなうまい話を信じる方がおかしいと思いますから馬鹿な人だなと思ったり、よくもそんな大金持っているなと羨ましくも感じるのです。


 この原稿を書きながら、「他人の不幸は蜜の味」「メシウマ」と思っている自分は本当にいないのか?と深く自分を見つめると、どうやら心の奥の方にいるのです。自分のことを棚に上げて人を馬鹿にして笑っている。どこまでいっても他人の身の上に起こったことはあくまでも他人事としてなにか助けられることはないかなどと思わない。しかもそのことに気付かないで偉そうに妻相手にコメントしている。なんとも愚かで恥ずかしい私でありました。
親鸞聖人はまさに私一人のためにご苦労くださったのだなと反省と感謝の今週でした。 合掌

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